本の感想
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1331

『キカイダー02(2)』MEIMU/原作:石ノ森章太郎
角川コミックエース
☆☆☆


DARKのギル・ヘルバート(ついヘル・ギルバートと誤読してしまう。こっちのほうが響きがいいもんだから…)が登場し、対立の構図が明確になる。先に作られたのにサブロウと名付けられたロボットが登場し、ミツコを人質にジローをおびき寄せる。ミツコの緊張感のなさが不自然だが…。このあたり、表層的には凝っているのだが、深みのなさを感じてしまうのはどうしてだろうか…。

あと、冒頭のジェット旅客機を襲うゴールデン・バットは、ウィングを畳んでいないと旅客機の翼にしがみつくのは物理的に無理!。


5/8





1332

『9枚の挑戦状』辻真先
光文社文庫
☆☆☆


「作者からの挑戦状」というのは頻繁にあるが、「読者からの挑戦状」というのは聞かない(解説などによると全く前例がないわけではないらしい)。募集してそれらに答えるミステリーを書いたのは本当のようだ。9つの出題のうち、最後の「読者“以外”みな犯人」というのが最も期待する出題。しかしながら、それ以外の挑戦はそれほど不可能興味をそそるような出題ではなかったことと、“本格”ものは少なく、“変格”で書かれたものが多かったのが少々残念。個々の短編で見た場合、それほど凄い短編集とはいえない。

しかしながら、連作短編としては、何かやってくれそうな仕掛けは読む途中で散見されるので、期待はしていたが、期待に違わぬラストで、思わずニヤリとしてしまった。

うがった見方をすれば、いくら読者から謎を募集するとはいっても、即興で無作為に選ばれるわけではないので、“書けそうな”問題を選んだと思われても仕方ない。また、その答となる推理小説短編として、ある種の作中作として素人が書いた、ということで“逃げ”たとも取れるのがズルイ。とはいえ、この人、自分自身を茶化すところがあり、この“逃げ方”にしても、辻真先が挑戦に答えるアイデアが出ない、というように堂々と書いてしまうところが面白くはある。こういうユーモアは現代人にはできない。

アンフェアだろうがなんだろうが、メタ・ミステリでどんでん返しさえあれば楽しめる、私のような人には面白かった。それはあくまでも読後感としてであって、それぞれの問題への答としては「うーん」と唸らざるを得ないものも多いのだが…。しかし、ひとつの長編としては凝りに凝った技巧が施されているのは確かで、それをごくごく軽く読ませてしまう能力は結構瞠目すべきものがあると思う。

挑戦状を出した人に2つも3つも採用されている人がいるということは、あまり集まらなかったんじゃないの…?と邪推してしまう。


5/9





1333

『ニャロメ、アニメーター殺人事件』辻真先
実業之日本社ジョイ・ノベルス
☆☆☆


アニメーター・玄也の章と探偵王・ニャロメの章が交合に進んでゆくところは『アリスの国の殺人』と同じで、玄也の書いたアニメのプロットである「探偵王ニャロメ」にはアニメキャラが多数活躍するところも同じ。本作では、さらにそれがパワーアップされていて、アニメファン、特に40歳くらいの人が最も楽しめるであろう内容になっている。

エンドクレジットから出演キャラを抜き出してみると

ニャロメ、目ん玉つながりのおまわりさん、伴俊作、アトム、アセチレン・ランプ、ゲゲゲの鬼太郎、目玉の親父、ねずみ男、一反木綿、ぬりかべ、オバケのQ太郎、一休さん
など、そうそうたる面々(この中でアセチレン・ランプだけは知らない。絵を見れば分かるかもしれないが)。これは実際に作者が彼らを脚本家として動かした、という(ある種とんでもない)経歴を持っているからこそ可能なことではあるが、
映画やテレビの題名に著作権がないってこと、あんた知ってるか(略)マンガのキャラクターは、絵になってナンボだ。だからキャラの名が文章に出てくるだけでは、著作権にひっかからない。知ってた?
これは知らなかった。こういうことも踏まえての、探偵役・ニャロメなのだ。

やっぱりニャロメという強烈で愛すべきキャラクターが主役を張っている偶数章のほうが面白く、現実の奇数章がもうひとつに感じてしまうのは『アリスの国の殺人』と同じ印象。それでも、最後には期待に違わずメタ・ミステリしてくれるので、本格ミステリファンには拒否反応があるかもしれないが、アニメファンがミステリ入門書として読むには格好といえる。とにかくニャロメの活躍を読むだけで楽しい。テレビアニメを見る感覚で楽しめた。同じマンガ/アニメをテーマにしたメタ・ミステリでは『ローウェル城の密室』があるが、あれと比べれば、こっちのほうが読みやすいし、読んでいてストレスはないし、断然いいのだが。

本書とは関係ないが、ニャロメの語源は「あの野郎め」→「あんの野郎め」→「あんにゃろうめ」→「あんにゃろめ」→「にゃろめ」だと思うのだが、赤塚不二夫が一足飛びに考えたオリジナルなのだろうか?それともこういう言い回しがあってキャラに使ったのだろうか?

一応注釈しておくと、タイトルは「ニャロメ殺人事件+アニメーター殺人事件」という意味のようだ。


5/10





1334

『東海道36殺人事件』辻真先
光文社カッパ・ノベルス


“同じ人物が2回も殺される”という趣向が面白いくらいで、あとはフツーの量産型トラベル・ミステリー。トラベル・ミステリーというのはどうしてこう面白くないのか…。多分論理ではなく、こういう乗り継ぎがある、とかというような知識であって、読者の論理によっては推理できないし、真相といっても「ふーんそんなこともあるのか」というだけだから。

私が読んだ中では初の非・メタ・ミステリ作品。今までの作品はどれも一癖も二癖も趣向が凝らされていたのに、本作はきちんと収まりすぎて、面白くなかった。2時間弱で読めたのはいいとしても…。


5/10





1335

『八ヶ岳「雪密室」の謎』笠井潔編
原書房
☆☆


なんとも比定しづらい本だ。笠井潔が企画するスキーツアーのロッジで、鍵を中に入れておいてのに、いつの間にか扉が施錠されていた、という謎に推理作家たちが取り組んだ本、とまとめられるだろうか。所謂「問題編」を二階堂黎人と編集者:布施謙一が、参加者として二人の補足を我孫子武丸、桐野夏生、貫井徳郎、それらのデータをもとにした推理を霞流一、喜国雅彦、鯨統一郎、斎藤肇、柄刀一が執筆している。

4人の推理は霞流一、喜国雅彦、鯨統一郎の3人のようにハチャメチャなものあり、斎藤肇、柄刀一のようにビビッドでさすが、と思わせるものあり。とはいえ、結局笠井と二階堂のまとめでは、謎は最終的には解かれず、読者に解答を募集するもので終わっている。

本作最大の問題は、「雪密室の謎」自体が非常にうさんくさい、というところにある。作家や編集やの紹介や道行きの過程の描写や、煩雑で鬱陶しいほどのロッジについてからの参加者の動きを除けば、謎そのものは最初に書いた「鍵が勝手にかかった」というだけのもの。もっといえば、この謎自体が実際に起こったノンフィクションなのか、ということが怪しい。執筆者が推理作家だからかもしれないが、この本全てが笠井潔の企画によるフィクションである、との疑いを捨てきれない。

要するにフィクションとしては無骨でいびつだし、ノンフィクションとしては現実性を疑ってしまうという、どっちつかずの体裁になっているのが困る。


5/10





1336

『殺されてみませんか』辻真先
双葉文庫
☆☆


多少反則気味ではあるものの、“被害者=作者、犯人=解説者”を使ったミステリという点で、変格ファンはチェックしておいたほうがいいのだろうか。

構成としては、新聞「夕刊サン」(『東海道36殺人事件』で読んだ可能克郎が登場する)に小説の連載することになる野末未来の短編原稿が次々出てきて、その合間に克郎の話が挿入されてゆく。『ぼくのミステリな日常』と同様のスタイル。

長編として見れば、まずまずの仕掛けといえるが、それぞれの短編がいけない。広義ではミステリーといえなくもないが、ミステリ、ましてや本格推理小説とはいえない作品が多いので、そういう意味では『ぼくのミステリな日常』に道を譲っている。

長編としての仕掛けを優先して快速で読むのが○。


5/11





1337

『天才バカボン(1)』赤塚不二夫
竹書房文庫
☆☆


アニメは何度か見たが、原作は初めて。本当はニャロメ目当てだったのだが、どうやら間違いだったらしい(『おそ松くん』のほうか?)。おまけに目ん玉つながりのおまわりさんも、この段階では完成されておらず、おまわりさんは何人も違った人が登場する。

さすがにコマ割りやキャラのデザインに時代を感じさせるものがあるものの、肝心のギャグそのものはタイプがタイプなだけに、古びていない。ナンセンスに継ぐナンセンスというような感じで、連続して“ボケ”が続くという展開が斬新。現在のギャグマンガやナンセンスマンガでも、ここまでナンセンスが連続する世界というのはあまり読んだことがない。

かなり大きな区分では谷岡ヤスジと同じような路線ではあるが、少し系統が違う。谷岡が天才なら、赤塚はプロ。吉田戦車なんかの所謂“不条理”マンガとはまた違う。

巻末にマンガの分析と、エッセイが載っているのがうれしい(ちなみにこの巻はタモリ)。


5/11





1338

『犯人 存在の耐えられない滑稽さ辻真先
創元推理文庫
☆☆☆


決闘を宣言した二人の作家のうちの一人が、離島の自宅の密室内で屍体で発見された。その手がかりは引っかかっていたのだが、証拠が最後の方に出てきたので、推理するのは難しいかも。

その他にも、二人の作家の短編が2×2編収録されているが、こちらは『殺されてみませんか』なんかと違ってちゃんとミステリーになっているので、一冊の長編としてみても「ミステリーを読んでいる」という感覚が減じられることはない。

トリックや構成は別に悪くないというか、水準以上のものだと思うのだが、真犯人が“読者”ということの意味づけが弱いように思う。それならそれで、全編通した小説パートの底流に流れるように伏線を貯めておかないと、真相が明らかになったときのカタルシスに繋がらない。


5/12





1339

『天使の殺人 完全版辻真先
創元推理文庫
☆☆☆☆


帯には「被害者は誰か? 犯人は誰か? 探偵は誰か?」とある。それぞれの要素が不明なミステリは多いが、それが3つ揃って分からない、という作品は読んだことがない。本作は作中作(今回は小説ではなく劇の台本)ものであり、天使が登場するSFミステリであり、もちろんメタ・ミステリでもある。

これまで読んだ中ではもっとも真っ当な本格に近い、フェアな作品。変格が嫌いな人でも、充分楽しめる。特に西澤SFミステリ好きにはもってこいかも。

ラストは、並録されている戯曲版にあるセリフでいえば

天使が出るのは、まぁいい。現実の殺人と天使が混線するのも結構だが、けっきょくなにが本当でなにが嘘なのかよくわからん
という感じなので、完全に全ての謎が解けないと納得行かない人には向かないかもしれないが、煙に巻くタイプの小説が好きな人は、楽しめることうけあい。

冒頭こそ同じながら、途中から結末まで全く違う戯曲版では、畳み込まれるどんでん返しが醍醐味。西澤ミステリの<タック・シリーズ>のように推測が中心になるので、どんでん返しの切れ味は少し弱いが、それでもその大サービスぶりは、充分満腹できるだろう。あとがきを読まないと分からないのだが、別バージョンが続けて載っているのまでどんでん返しとして機能しているのが良いのか悪いのか…。


5/12





1340

『SAKURA 六方面喪失課山田正紀
トクマノベルス
☆☆☆


警視庁のおちこぼれが集められた「失踪課」の刑事たちの活躍を描く、連作短編ミステリ。設定からするとまるで『機動警察パトレイバー』だが、本作ではアニメオタク、ソープ通い、堅物、グータラ、そして謎の課長と、キャラが立っていること『パトレイバー』を上回っている。

各短編はそれぞれ完結しているものの、連続している要素が多いので、それぞれの内容を書くのはネタバレになってしまうが、“人間消失”ものの「人形の身代金」がなかなか切れ味良い。

本作の魅力はそれぞれの短編を読み進むごとに全体の謎がじわじわ浮かび上がってくる、長編としての部分が大きい。最終章の展開そのものは先に“映画『逮捕しちゃうぞ THE MOVIE』”で似たような状況があったので、それほどショッキングではなかったが、その下地づくりはちゃんとしていて、さすがは山田正紀らしい、ハードな展開。あとがきにある作者のことばをそのまま転用できる。

考え抜かれたプロット、スピーディな展開、浮き出たキャラクター、
充分満腹できるコース料理である。


5/13




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